■「暗記型学習」になっていないか
11月21日(月)、総合芸能学院「テアトルアカデミー」様にてセミナー講師を務めさせていただきました。対象は3年生までのお子さんのお父さん、お母さん、ともに講師として登壇されたのは、「中学受験情報局」で主任相談員としてご一緒している辻義夫先生です。
子役のお母さん、お父さんたちの中には中学受験を意識している方も多く、対象はお子さんが低学年の方だったのですが、みなさんとても熱心にお話を聞いてくださいました。
辻先生の軽妙なトークで会場が笑いに包まれるシーンもあり、とても和やかな会になりました。
今回、低学年のお子さんのお父さん、お母さんたちの話を聞いて改めて思ったのは、私たちがふだんあちこちでお伝えしている「低学年のうちは塾通いよりも基礎学習を」といったことも、少し意外なこととして受け取られたことでした。
我が子に中学受験をさせようと考えた場合、少しでも早く「受験勉強」を初めて「先取り」するのが有利と考えてしまいがちですが、先取りできることとそうでないことがあり、意外に先取りできることは少ないのです。
計算や漢字など、反復練習によって上達していくことは先取りできるのですが、受験の合否を左右する思考力や判断力、整理力などは、年令とともに発達していくところがあり、小さい頃に高度な内容のことを習っても、腑に落ちないのです。
小学校低学年の子どもに速さや割合、つるかめ算などの文章題を教える塾があります。こういった単元は、程度の年令にならないと「ピンとこない」部分があるのです。でもやり方、計算のしかたを覚えてしまえば答えは出るし、次の週のテストでいい点も取れ、塾のクラスも上がります。そして、大好きなお母さんだって喜んでくれる。
だから、つるかめ算は「かけて、ひいて、わる。」と覚えるようになってしまう。
これが低学年の学習でもっとも陥ってはいけない状態です。
1つ1つ理解、納得し、「ああ、なるほどな」と思いながら学習をすすめる習慣を低学年のうちにつけ、高学年ではそれを速く、ふだんの学習の中で繰り返せるようになっておかなければならないのに、いわばそのまったく逆のことを行っているわけです。
こんな注意点をお父さん、お母さんがちょっと知っているだけで、お子さんの数年後は大きく変わります。
お子さんがまだ低学年なら、「どうして?」に気長に付き合ってあげると、数年後大きく伸びるはずです。
小4の女の子のお母さんから相談がありました。
4年になって文章題でまったく点が取れなくなったとのこと。
計算はよくできるのですが、筋道をたてて論理的に考えることが苦手だそうです。
また、図をまっすぐ書くのも苦手ということです。
習い事に忙しく、塾の勉強は親御さんが側について教えています。
4年生の段階では、問題はまだ易しくて親でもなんとか教えられるから、家庭教師の先生に頼むのは5年生か6年生のいよいよ困る時期になってからにしようとお考えのご家庭がとても多いのですね。
それが間違いだというわけではないのですが、4年生という学年は、5年生、6年生とは違ったとても重要な役割を持った学年だということは、知っておいてほしいと思います。
どういうことかというと、4年生から始まる中学受験の3年間カリキュラムの中で、4年生の一年間は学習のやり方、学び方、塾との付き合い方を身につけていく学年なのです。
問題がそれほど難しくなく、量も限られているのは、「学び方を学ぶ」余裕を作るためです。
今回は、そのことをご存知でない様子だったので、この学年の残り2ヶ月を大切に過ごしてくださいねとお願いしました。
図がまっすぐに書けないという心配についても、時間をとって話しました。
算数科の講師が集まるとよく話題になるのですが、線がまっすぐに書けない子どもが最近ほんとうに増えているんです。
ぐにゃぐにゃ描いたり、斜めに傾いていたり。
これには、えんぴつの持ち方が正しくない子が多いことも関係していると私は考えています。
かく図の長さのバランスがおかしい場合もあります。
これは、五感を大切にした基礎学習ができていないからで、量の感覚を身体感覚として落とし込めていないことが原因なのですね。
問題の本質は、「これくらいの大きさは、これくらいの長さに書けばイメージに近くなるはず」という「量の感覚」「量のイメージ」がしっかり身についているかということ。
量の感覚が身についていないと、「2に対して3はどれくらいの長さで表せばいいか」が感覚的にわからず、図が形だけ、教えられたからそう書いている、というふうになりがちです。
こうなると、いくら「図をかいて考えなさい」と教えても、「なぜそのように図示すればわかりやすいのか」が腑に落ちず、図を書くことの恩恵を得ることができみくいのです。
お子さんの現状はどうなっているか、改めて見つめなおす機会がとれるといいですね。
■できていない子にはできない理由がある
「できていない子には、その子なりの『できない理由』があります。
その理社がうまくいっていないのなら、その『理由』をつかみたいですね。
塾の宿題の取捨選択が必要なのか。一問に時間がかかりすぎるのか、算数に時間がかかりすぎて、理社の勉強時間が十分に取れていない場合、それは計算のスピードの問題なのか、そもそもやる気の問題なのか。
その子どもの問題ごとに対策を取りつつ、理科と社会のやり方をちゃんと教えてあげる必要があります。
■家庭学習が「まず宿題から」は間違い
時間をかけてやっているのにテストでは点数が取れない。
一般的に、そういう子は毎週の勉強を宿題からやり始める傾向にあります。
でも、それは間違いです。理科・社会の宿題は、その項目についてちゃんと覚えたかどうかの確認テストの意味合いがあるからです。にもかかわらず、覚える時間を取らずに問題を解いて、分からないから解説を確認して書く、
という作業の繰り返しでは、知識が入っていないまま問題ごとに当てずっぽうで当てにいくのと同じ。
それではテストのたびに出来るかどうか、いつも「一か八か」のままです。
受験でイニシアチブを取るには、理科と社会の現状と到達度への目配りが
とても大切です。うまくいっていないときはその原因と、いつまでにどういう状況にしてあげたいのかを常々考えておく必要がありますね。
■「理社は直前の追い込みで」という言葉を信じてはいけない
現時点での理科社会の到達度について、塾の先生は詳しい目配りもなしに、「理社は直前の追い込みに期待しましょう」と親に伝えがちです。お母さんも、塾の先生が言うならそうなのかなと、何となく先送りにしてしまいます。
しかしそれは、子どもにとっては非常に酷な話で、「できない理由」が解決されていないのに直前になって知識を詰め込もうとしても、思うようにはいきません。
いま勉強の仕方を間違っている子には、いま修正をかけてあげなければ、入試の最後の最後まで苦労が続いてしまうものです。
現状にぜひ目配りをしてあげてください。