一歩外へ出ればヒリヒリするほどの光が照りつけ、滝のように汗が噴き出す日々が続いていますね。
今年は世界各国で最高気温の記録が更新されており、気候科学者の間では「観測史上最も暑い年」を更新する可能性が非常に高いと予測されています。
「夏だね〜」とうちわをパタパタあおぎながら、ふりそそぐ蝉の鳴き声の中、家族でスイカにかじりつく……。
私が子どもの時分には当たり前だった「真夏の縁側で冷たいスイカ」という夏の風物詩も、もはや古き良き日本の原風景になりつつあります。
なんだか少し淋しいですが、扇風機さえあればやり過ごせた日本の夏も、今や一日中窓を閉め切ってクーラーをかけていなければ命に関わる時代になってしまいましたから仕方がないですね。
先日「子どもがいる家庭の熱中症・暑さ対策に関する意識・実態調査」が行われ、暑さが原因で体調を崩したことがある子どもは51.3%、食欲不振になったことがある子どもは51.2%いることが判りました。(明光ネットワークジャパン調べ)
夏休みに入り二週間ほど過ぎましたが、皆さんのお宅では熱中症対策や万が一の対処法等について、ご家族で話し合われましたか?
同調査によれば小中学生の子供がいるご家庭の57.1%が「熱中症について親子で話し合った」いう結果が出たそうですが、逆を言えば4割以上のご家庭ではそういう話し合いがなされていないということです。
夏休み真っ只中の現在、中学受験生の皆さんは夏期講習通いで連日猛烈な暑さにさらされていることと思います。
また夏は「受験の天王山」とも言われる大切な時期ですから、特に高学年の皆さんは知らず知らずのうちに日々気力・体力を使い果たし、疲れも出やすくなっています。
そこで本日は「熱中症」にまつわる基礎知識をまとめてお伝えします。
予防対策や万が一の応急処置もお話したいので少々長くなってしまいますが、「大暑の候」終盤、暑さの最盛期である8月上旬が到来する前に、今一度ぜひご家族で確認・話し合いをしてみてくださいね。
●「熱中症」は命にかかわる病気
2018年から3年連続で1000人以上が熱中症で亡くなっています。
2021年は死亡者数755人と前年の1528人から半減したものの、昨年(2022年6~9月)には再び死亡者数1387人と、例年と変わらぬ1000人以上という結果に戻ってしまいました。
対策が功を奏したというよりは、気温による一時的な減少であった可能性が高いと言われています。
熱中症はこのように思いの外恐ろしい病気です。
ただし対策は可能であり、私達の予防行動次第で避けることが出来得る病気でもあります。
後ほどお話しする「熱中症警戒アラート」も活用しながら、家族で万全の対策を取り、夏を無事乗り切りましょう。
●「WBGT(暑さ指数)」とは?
全国で令和3年から運用が開始されました。
前述の調査でWBGTを知っている保護者の方は34.2%のみでしたが、これは一言で言うと、環境省が情報提供する身の回りの暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)を指しています。
具体的には人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目し、気温・湿度・日射・輻射ふくしゃ・風の要素をもとに算出する指標として、熱中症発生の危険度を知らせるために用いられます。
各指数における注意事項の目安は以下のとおり。
◯25以上28未満:中等度以上の生活活動で起こる危険性 。運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休息を取り入れる。
◯28以上31未満:厳重警戒。熱中症患者の発生率が増えるため厳重な警戒が必要。外出時は炎天下を避け、激しい運動を避ける。室内では室温の上昇に注意。
◯31以上:危険な暑さ。全ての生活活動で起こる危険性。
高齢者は安静状態でも発生する危険性が大きい。
外出はなるべく避け、涼しい室内に移動。
※WBGT値は気温と区別するため、単位のない指数として表記されます。
暑さ指数は場所だけでなく、時間帯によっても変わるので、長時間外を歩く・戸外活動の予定がある等、気になるときには環境省熱中症予防情報サイトや、環境省のLINE公式アカウント等で事前にぜひ確認しておきましょう。
●「熱中症警戒アラート」とは?
環境省と気象庁が、熱中症の危険性が極めて高い暑熱環境が予測される際、暑さへの気づきを呼びかけ、熱中症予防行動を効果的に促すために発表するアラート。
令和3年より全国で運用開始。
今年も4月26日〜10月25日まで使用されます。
前述のWBGT(暑さ指数)に基づき、熱中症発生の危険性が極めて高くなると予想される日の前日17時、または当日朝5時の1日2回、都道府県ごとに発表されます。
熱中症警戒アラートが発表された場合は特に積極的に予防行動を取るように心掛けましょう。
熱中症警戒アラートの発表状況はテレビやネットのニュースや天気予報、環境省・気象庁のサイト等でいつでも確認できます。
●「熱中症」予防と対策
熱中症はそもそも炎天下などの猛暑で体温調節がうまくいかなくなり、体内に熱がこもってしまうことで発症しますので、暑さを避けることが最も重要です。
前述の「WBGT」や「熱中症警戒アラート」等も参考に、熱中症の危険性が高いと予想される日は不要不急の外出や屋外での運動、長時間の作業はなるべく控えましょう。
涼しい服装を心がけることはもちろん、人は軽度の脱水状態程度では喉の渇きを感じないため、喉が渇いていないと思っても、こまめに水分・塩分をしっかり補給することが非常に大切です。
年齢や状況により個人差はありますが、1日1.2リットルくらいが摂取量の目安です。
塩分の摂取にはスポーツ飲料や塩レモン飴なども手軽で良いですね。
室内にいる場合も油断せず、昼夜を問わず風通しを良くすること、エアコンなどを使用して部屋の温度に気をつけましょう。
その際は扇風機を併用して室内の空気を循環させるようにすると、温度が下がりやすくなります。
また、エアコンが効かない場合はフィルター掃除も有効ですので、できれば2週間に1回程度手入れをしましょう。
高齢者や乳幼児、体調不良の家族など、熱中症のリスクが高い人には進んで声かけやサポートをしましょう。
特に危険性が高いのは65歳以上の高齢者です。
発汗と血液循環の機能が低下しているためそもそも体温調節がしづらく、暑さも感じにくくなっていることが多いからです。
●「熱中症」重症度の目安
分類 重症度/主な症状
◯Ⅰ度 軽度/現場での応急処置が可能
めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)、大量の発汗
◯Ⅱ度 中等症/病院への搬送が必要
頭痛・気分の不快・吐き気・おう吐。力が入らない、体がぐったりする(熱疲労、熱疲弊)
◯Ⅲ度 重症/入院・集中治療が必要
意識がなくなる、けいれん、歩けない、刺激への反応がおかしい、高体温(熱射病)
もしも家族などに不安な症状が見られたら、上記の目安で状況を判断しましょう。
万が一の対処法については次項でお伝えします。
●万が一「熱中症」になってしまったら?
・涼しい環境に避難させる
大量の発汗やめまいなど、軽度であれば風通しの良い日陰やクーラーが効いている室内など涼しい場所へ移して様子を見ましょう。
急変の恐れがあるので、落ち着いてもしばらくは一人にしないでください。
・身体を冷やす
衣服をゆるめ、濡らしたハンカチやタオル、冷たいペットボトルなどを首、手首、足首、鼠径部などにあてましょう。
身体から熱を放散させ、皮膚直下を流れている血液を冷やすことが有効です。
・水分補給をさせる
冷たい飲み物を飲むことは、身体の内側から過剰な熱を奪うことにもなります。
汗で失われた塩分も補えるよう、経口補水液やスポーツドリンクが望ましいです。
乳幼児で自分で飲めない場合は口からストローやスプーンを用いて少しずつ垂らす方法もあります。
ぐったりしている、呼びかけても反応がない、意識障害が疑われるなどの理由で自分で飲めない場合は中等症〜重症の可能性が高く、無理に口に含ませると誤って水分が気道に流れ込む危険性もあり危険です。
救急車を呼ぶなどしてすぐに病院に搬送しましょう(点滴で対応してもらえます)
●翌日はどう過ごす?
熱中症になった翌日は、激しい活動は控えましょう。
ふらつき、食欲低下、吐き気、筋肉の痙攣などの異常などの症状が出ていなければ、普段通り塾の夏期講習や学校、図書館での勉強等に出かけても構いません。
ただし、前日の症状が重度であった場合はなるべく家族の目が届く自宅で過ごすことをおすすめします。
以上、本日は熱中症にまつわる基礎知識をお伝えしました。
中学受験生の皆さんが「災害級の暑さ」である2023夏を、健やかな心と身体で元気に乗り切れるよう心から願っています。