中学受験も終盤を迎え、進学先が決定した生徒さんも増えてきましたね。

コロナ禍での受験戦争は、ご本人も保護者の皆さんもあらゆる面で大変だったと思います。本当にお疲れ様でした。

まだ残りの試験が控えている皆さんもいらっしゃるかと思いますが、今日は既に受験を終えられた生徒さん、中でも残念ながら志望校に不合格であった生徒さんの保護者の方に向けてお話ししたいと思います。

受験を終え見事お子さんが合格を勝ち取ったのであれば、もういったん何も考えずワイワイお祝いをしたり、遅いクリスマスやお正月代わりのゆったりした日々を満喫したりとのびのび楽しめば良いのですが、望まない結果と向き合うことになった場合はそうはいきませんね。

落ち込んでいるお子さんを、どのようにケアしてあげたら良いのでしょうか。
そして、この不合格を今後に最大限活かすために果たして何が出来るでしょうか。
まずお子さんへの声かけ、心のケアについてですが、大切なことは、お子さん自身が現実を受け止める時間をきちんと与えてあげることです。

不合格が発覚したとき、ご自身もショックの余り、慌ててこんな発言をなさってはいませんか?

「頑張ったのだから良いじゃないか。切り替えて元気を出さなくちゃ!」
「落ち込んでいるの?ママは全然落ち込んでいないわよ、結果がすべてじゃないもの」
「さあ、明日から高校受験に向けてがんばろう!」
「◯◯ちゃんもダメだったんだって。落ちたのはあなただけじゃないわよ」
「お母さんも残念だわ。勉強を頑張り始めたのが少し遅かったわね。」
「だから『安全校』も受けた方がいいと言ったじゃない。あなたが選んだ道なのだから仕方ないけれど。」
などなど。

どれもご自身の気持ちのやり場がなかったり、ご本人を元気付けるためだったり、良かれと思っての言葉だとは思いますが、これらはどれもお子さんを追い込んでしまう発言です。

受験校の検討が甘かったこと、エンジンのかかるのが遅く合格レベルに達せなかったこと、落ちたのは自分だけではないこと、気持ちを切り替えて頑張らなければならないこと……。
どれもこれも、ご本人はもう痛いほど思い知り、判っているのです。

そんな現実を改めて周りの人間から諭されたくないことは、ご自身が何か失敗してしまった時のことを想像なされば、大人の皆さんも容易にご想像がつくと思います。

ではどうすれば良いかと言えば、上述の通り「お子さん自身が現実を受け止める時間をきちんと与えてあげる」ことです。
必死に励ましの言葉を考えたり、蕩々とお説教をしたり、ご自身の落ち込みをごまかして明るく振る舞う必要はありません。

今は静かにお子さんの気持ちを思いやり、お子さん一人の時間を作ってあげてください。
二人三脚(もしくは三人四脚)でここまで歩んできた皆さんの今のお気持ちは、何も言わずともお子さんに伝わります。
色々声をかけたいところをグッと我慢してあげる。しばらく余計な声かけをせず静かに見守ってあげることこそがお子さんへの最大の優しさであり、不合格体験を今後に活かす大切なポイントだと思います。

自分自身を静かに振り返る時間が出来て初めてお子さんは現実を受け止めることが出来ます。そして、いずれ次の段階として「なぜ志望校に落ちたのか」「これから自分はどうして行くか」についても考え始めることでしょう。

実際、中学受験は文字通り、合格だけが全てではありません。
この経験を生徒さん自身がしっかりと受け止め振り返ることで、不合格体験からも合格体験以上の学びと成長の機会を得ることができ、それが今後の成功の礎となるのです。

そして、お子さんがある程度現実を受け入れ、自分自身の受験生活について振り返り、今後について考えることが出来始めたら、ご本人が進学することになった学校について、ぜひ一緒に話してみてください。

偏差値だけの受験校選びをしていなければ、皆さんの進学することになった学校は「ここは良い学校だな」もしくは「通っても良いな」と思えた学校のはずです。

中学受験で第1志望に合格出来るのはたった3割のお子さんで、殆どの場合は第2志望以下に進学します。
大切なのは、ここからどう伸びていくかです。

ですからお子さんが今回の受験を振り返っている間、保護者の皆さんはぜひお子さんが4月から通うことになった学校について良いところを改めて見直しておき、
「良い学校に決まって良かったね」
「ここはあなたの入りたい◯◯部の活動が盛んだから楽しみだね」
「家から20分で通えるから自由な時間がたくさん出来るね」
「ここはタブレット端末を生徒一人に一台貸与してくれるんだよね。ICT教育に力を入れていて、あなたたちの時代にぴったりだね」
などと、言葉にしてお子さんに伝えてあげてくださいね。

信頼する保護者の方の前向きな発言こそが、お子さんの新生活のモチベーションとなり、4月からの中学校生活を楽しみにさせてくれることと思います。

決して、「残念な学校へ通うぼく、わたし」というイメージで春を迎えることがありませんように。

これまでにも何度もお伝えしていますが、”全ての子どもにとって最も良い学校”などというものは存在しません。
“良い学校”とは、そこに通うお子さんにとって居心地が良く、日々前向きに楽しく勉学や部活に励むことができる環境が整っており、友人に恵まれる学校生活を送れる場所ではないでしょうか。

それは自分のモチベーションの持ちようによっても変わってきますし、実際に通ってみなければ分からないものです。

中学受験は合格を目標にやってきたのですから、もちろん第一志望合格こそが最高の結果であり、努力してきた皆さんへのご褒美といえます。
しかし、繰り返しになりますが、たとえ不合格となっても、その失敗体験からお子さんが多くのことを学び取り、自分自身を変革し、今後の人生に活かすことが出来たならば、それは大きな「成功」となり得るのです。

全ての受験校に不合格となり公立中学に進学する人も、その良い点を見つけ、活かしましょう。
公立小学校に通う場合、家から近い分学習に費やせる時間は多くなりますし、教育費も私立進学よりずっと少なく済みますから、その分を今後の学習を支える塾代や家庭教師代に回すこともできるでしょう。

中学受験にチャレンジした生徒さんはそうでない生徒さんに比べ知識が豊富で学習習慣も身についていますから、入学後もしっかり努力を続けていれば、公立中学で3年間トップクラスの成績を取り続け、大きな自信を得ることも出来るでしょうし、学校推薦の道が拓ける場合もありますね。
進学先には小学校の友達も数人いるでしょうから、初めのうちは特に心強いかもしれません。

また、指定区内から通いたい中学校を選べる「学校選択制」が利用できる地域もありますから、その場合はよくホームページなどを確認し、お子さんにあった中学校を一緒に選んであげてくださいね。

どんな結果であれ、受験生の皆さんが与えられた現実をしっかりと受け止め、この経験を人生の財産としてよりいっそう輝いて行けることを心から願っています。