今回は、家庭教師の選び方の最終回です。

6 解き方の引き出しをたくさん持っている。

少し前の相談電話にこのようなことがありました。

「ある、大きな組織の家庭教師会社からにプロ家庭教師の体験授業をお願いしました。

そのときに、差集め算を子供が面積図で解こうとしたところ、

「その解き方はダメだ、私の解き方でやりなさい。」

と言われてしまった。

以前、子供が差集め算で苦労している時に、お母さんが工夫を重ねて面積図で説明したところ、

ちゃんと理解できて解けるようになったのに、それを否定されてお母さん自身もショックだったそうです。

その先生の解き方をお子さんは体験授業時間内には理解できなかったそうです。

私のこれまでの経験では、解き方の引き出しの少ない先生は特定の解き方を押しつけることがよくあるようです。

たった1問の算数問題でも解き方はいくつもあります。

どの方法がよいのかは、「時期(どんな方法を習ったことがあるのか)」・「お子さんの得意不得意」・

「受験校の問題傾向」などによって決めていくものです。

また、算数の正しい解法とは、子供が絶対に正しいと思えることを組み合わせて正解にたどりつくことができる方法です。

子供が解く課程で遠回りをしていたり無駄な処理をしてる場合には修正を加えるべきですが、

解き方の大筋は子供の思考過程を認めていくべきです。

その上で余力がある場合には、「こんな方法もあるよ。」と提示してあげることはよいことです。

正しい解き方であるのも関わらず、「その方法はダメ!」と言うのは狭量だと思うのです。

子供の思考に寄り添って、今何を感じて何を考えようとしているのか、何を発見できそうなのか、

何に気づかずに立ち止まっているのか。

このように、目の前の生徒について、どんどんと仮説を立てて一緒に考えていくような指導を

目指してほしいものだと考えています。

私達の名門指導会では、全員がそれを目指しています。

先生方の熟練度とは、この仮説の精度ではかられるべきだと思っています。

7 こわもてので叱咤激励だけの講師はダメ。

「こんなこともできないのか!」

「これは、前に教えたろ!なぜ覚えていないんだ!」

「宿題もやっていなかったのか!」

このように家庭教師に罵倒され続けた生徒が、

「そんなにやる気がないんだったら、もう教えに来ないぞ、いいのか!」

と聞かれて、

「いいよ。」

と答えてしまった。これは、初めて伺った体験授業で聞いた話です。

その家庭教師の方としては、

「叱咤激励することで、子供のモチベーションを高めよう。」

と思って投げかけた台詞だったのでしょう。

子供から拒絶されて驚かれたことと思います。

でも、私はその家庭教師に同情はできません。

しかりつけたり、理解しないことを罵倒することでは、子供の頭は働いてくれないことぐらいは理解しておいてほしいとおもうからです。

少なくともプロ家庭教師を自称するなら、そのぐらいの知識を持ち合わせて効果的な手法を研究してほしいのです。

子供は、成功の予感があるときにはがんばります。

難問を前にうんうんうなっている状況でも、子供に解ける予感があれば解けてしまいます。

それは、子供の表情を観察しているとわかります。

がんばれると感じることができれば、子供はがんばるものです。これらは大人でも同じだと思っています。

がんばれそうとか、解くことができそう、宿題をやりきれそう。

子供にそう思わせる手法はいろいろあり、時と場合によって使い分けていく必要があります。

どの場面でどのような言葉をかけてあげるか、何を言ったらダメなのか。

このような試行錯誤する力は、教える側に一番必要な資質だと考えています。その資質の源は、その講師の精神性だと思います。

教えるという職業は、「教えながら教えられる」ことが多い素敵なものだと感じています。

目の前の生徒の成績を上げてあげたい。

子供に必死の思いで日々関わっていらっしゃるお母さんに、安堵の気持ちと自信を持ってもらいたい。

ひいては、ご家庭が明るく幸せであってほしい。こんなことを直接考えて行動することができる幸せな職業だと感じています。

私の目からは、叱咤激励や罵倒は、職業上の幸福感から一番遠いものに感じるのです。

よくないことは、当然しっかりと指摘し修正させていく必要があります。

そういう時でも、その生徒の生活履歴や学習履歴や学習環境に目を配り、

そうなった原因を一緒に取り除いてあげるような暖かい視点が大切です。

それがあれば、経験値に応じて対応方法の引き出しはどんどん増えていくものだと信じています。

3回にわたって「どんな家庭教師や個別指導が良いのか」を書いてきました。

でも、各項目について神経質に観察する必要はありません。

体験授業を通して、親御様がお感じになった、

「この先生は誠実そうだ」、「この先生は、うちの子のために一生懸命になってくれそうだ」、

このような感覚を大切にしてもらえればと思います。