ダブルバインドという言葉をご存じでしょうか。

ダブルバインド(二重拘束)とは、
通常の質問やメッセージを正しく理解し行動すると罰せられ、
異なる理解や間違った理解をしても罰せられるという、「どちらに転んでも叱られる」状態に置くことや、
その時に使われる方法のことです。
 以前、何かの本でこの言葉を聞いたときに、あるご家庭での会話をふと思い出したのです。

私がいることにお構いなしに子供を平気で叱るお父様なのですが、
「こんな簡単なところでミスをするなんて。なぜ、ミスをするのか分かっているのか!」と、
お父様が子供に怒気を含んだ質問をされました。
子供が、
「試験になると焦ってしまうことと、計算の字がいい加減な事。」
と返事をしました。ケアレスミスのことでお父様からいろいろな指導を受けたり叱られたりしたなかで、
子供なりに言葉に出来ることをやっとの思いで話したのだなと、感じました。
ところが、お父様は、
「それが分かっていて、なぜちゃんと出来ないんだ。だからおまえはバカなんだ!」
と罵倒されたのです。
 実は、その数週間前にも似たような場面があったのです。
 ミスの多い答案を前に、
「こんな簡単なところでミスをするなんて。なぜ、ミスをするのか分かっているのか!」
と、質問の形式を含む叱責です。
その時の子供は、
「よく分からない。」
と答えました。
「そんなことも分からないから、おまえはバカなんだ!」
と、お父様の反応がありました。

同じ質問に関して、Yesと答えれば叱られ、Noと答えても「だからおまえはバカなんだ」と叱られる。
しかも、お父様はそのご家庭の中では絶対の存在なのです。

「ダブルバインド」という言葉を目にしたときに、この会話を聞きながらなぜか暗い気持ちになったことを
思い出したのです。

どう答えても叱られることが分かっているときに、子供はその質問には絶句するしかなくなります。
結果的に、子供の中に無力感が沈殿し、叱る父親と叱られる子供との間に強い権力の壁が
できあがります。この無力感が子供の学力の伸びを阻害します。

 ところが、このような例は決して少なくないように感じるのですがいかがでしょう。
テストで悪い点数をとってきたときなど、
「なぜ、こんなに悪い点数になったか分かっているの!」
とお母様が聞かれたときに、
「あまり勉強しなかったから。」
とお子さんが答えようものなら、
「それが分かっていて勉強しなかったのね!」
と叱責されます。
もし、
「分からない。」
と答えれば、
「そんなことも分からないの!」
という叱責の言葉が既に準備されているのではないでしょうか。

 このような時の親御様の気持ちを想像するに(私も人の親ですからあのときはどうだったかな
などと考えるわけですが)、「なんとしても懲らしめてやらないと、気が収まらない」という感情に
支配されているように思うのです。
ところが、「子供のために叱っているんだ」という思い込みの相乗作用で、感情がますます
高ぶってしまいます。
このような経験が全くないという親御様はいらっしゃらないのではないでしょうか。

ダブルバインドの反意語を何というのでしょうか。
二重拘束の反意語ですから、二重解放とか二重肯定という事になるのでしょうか。

どちらの返答があっても、「そうね。」と受けてあげるとどうでしょう。
「なぜ、こんなに悪い点数になったか分かっているの!」
「あまり勉強しなかったから。」
「そうね。それが分かったのだから次に期待しているわよ。」

(「「分からない。」
「そうね。なかなか難しいわね。一緒に原因を考えてあげましょうか」)

「こんな簡単なところでミスをするなんて。なぜ、ミスをするのか分かっているのか!」
「試験になると焦ってしまうことと、計算の字がいい加減な事。」
「そうだな。それが分かっていながら出来ていないのは何か別の原因がありそうだな。」

(「「よく分からない。」
「そうだな。それが分かれば苦労しないからな。」)

どちらの例も、「そうね。」「そうだな。」で、話を引き継ぐことができる事に気付いていただけましたでしょうか。