前回は、理科が苦手なお子さんの例を書いてみました。今回は、得意になったお子さんの例をお知らせして、その理由を考えてみたいと思います。
□A君□
印象的だったのは、お母さんが理科好きだったことです。ちょうど私が「生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)福岡 伸一著」を読み終わったころの話です。
この書物で、生物学研究者の葛藤を垣間見ることが出来ました。
そのことは、他の生物学の書物とは大きく異なる点でした。
また、私がまだ高校生だった頃
に、奈良女子大出身のおばあちゃん先生(この先生には本当にお世話になったのですが)の生物の授業で、「ワトソン・クリックのDNA二重らせん構造」の話
を聞いた事を思い出しました。
生物学のすばらしさと、近年に発見された画期的な成果を興奮気味に話してくださった授業を、林に囲まれた木造校舎と共に思い
出したりしていました。
A君は、理科で記述問題を多く出す学校を第1志望としていました。
お母さんから、「この学校は、理科の幅広い素養や雑学がある方が有利だと思うので、何
か良い本があれば教えて欲しい」と聞かれたものですから、ちょうど読み終わった「生物と無生物のあいだ」を、小6生にはちょっと難しいんだけれど、と思い
ながら紹介しました。
そうしたら、お母さんが、「この本ですか?まだ読んでいないんですがおもしろそうだと思って数日前に買ってきたんです。」といいながら、まさにその本を机に置かれたのです。
お母さんは、大学の文系学部出身ですが、理科分野への興味を持ち続けていらっしゃったようです。
本箱には、生物学や球物理学の読み物が何冊も収まっていました。
翌週伺ったときには、お子さんはまだその本を読んでいませんでしたが、お母さんは読み終わっていらして、「冒頭部分の野口英世の話と、内の内は外の話がおもしろかったですね」とおっしゃっていました。
理科の授業をしていると(私の授業は、基本的にはダイニングテーブルで行っています)、生徒以上にお母さんが熱心に聞いていらっしゃいます。
お子さんも、私の脱線だらけの授業に食らいついてきます。
フロンガスによるオゾン層の破壊の単元で、オゾンから活性酸素が出る話や、活性酸素はお肌に悪いこと、そ
のような活性酸素は過酸化水素からも出ること、その活性酸素が殺菌作用や漂白作用を持つ事まで話を広げていっても、興味深げな生き生きとした表情がか崩れることがなく、ますます熱を帯びてきます。
このお子さんに対しては、考え方の正確さだけに注意しておくだけで大丈夫でした。
□B君□
私の授業は、A君の所でも書いたように、どんどん脱線していきます。
出来る限り知識のつながりやネットワークを作ってもらうことを意識しているからなのですが、場合によっては簡単な実験が宿題になることがあります。
B君は、そのような実験を本当に楽しんでくれたという実感があります。お母様の協力も無視
できません。
「牛乳にレモンを半分搾って入れてかき混ぜてから飲む」という宿題を出しました。
タンパク質は酸によって固まる事を確認するための実験です。
「ヨーグルトみたいでなかなかおいしかったよ。でも酸っぱすぎたから途中から砂糖を入れたらもっとおいしくなった。」という感想が聞けました。牛乳の実験
の後、お母さんの方から「じゃあ刺身だったらどうかな?」という発案がお子さんにあり、しめ鯖、サーモンのマリネを一緒に作られたそうです。
重曹を使ってドーナッツを作るという宿題を出したこともあります。重曹をたくさん使ってドーナッツを作ると、大きく膨らんでおいしそうにできあがります
が、食べてみると苦くってとても食べられたものではありません。
炭酸水素ナトリウムがアルカリ性の強い炭酸ナトリウムに変わってしまうからなのですが。
お母さんは、笑いをこらえてそのドーナッツ作りに協力されたそうです。
その実験の後、B君から、「無理して苦いドーナッツを食べると、むかむかして食欲
がなくなってしまって、夕飯が少ししか食べられなかったんだ。
何でなの、先生?」という質問がありました。
そこで、家にある胃薬を持ってこさせて、その成
分表示を読ませてみました。その中に、「重曹」を見つけたB君は、まるで鬼の首を取ったように大喜びです。
「なぜ、胃薬に重曹が入っているの」(私)
「?????」(B君)
「じゃあ、胃液には何があるの?」(私)
「ペプシン」(B君)
「それだけ?」(私)
「あと、塩酸も。」(B君)
「あっ!塩酸を中和するためだ」(B君)
「良く気がついたね。強すぎる胃酸を弱めるためだね。重曹入りのドーナッツを食べ過ぎて胃酸が弱くなりすぎたんだね」(私)
「ところで、ドーナッツを食べ過ぎたとき、ゲップが出なかった?」(私)
「出たよ。」(B君)
「それて何かな?」(私)
「重曹と塩酸だから、二酸化炭素!」(B君)
B君は得意満面です。
このような会話が頻繁にありました。
そして、「なぜなの?先生」が口癖のようになっていました。
このB君、小学校低学年までの愛読書は、「子供の科学」と「朝日小学生新聞の科学欄」だったそうです。
子供の科学に書いてあった実験は欠かさずやったということをお母様からお聞きしました。
カブトエビを死なせてしまって大泣きしたこともあるそうです。
□Cさん□
理系の大学を最終目標にして、上位の私立中学を目指している女の子です。
電磁気の単元で、簡易モーターがどうしても解けません。次週までの宿題として、「エナメル線・クリップ・紙やすり・消しゴム2つ・丸い磁石・電池と電池ボックス」を東急ハンズで買ってきて作るという宿題を出しました。
紙やすりを使って、エナメル線を半分だけはがす方法は事前に教えておきました。
翌週、「先生回ったよ、これこれ!」とやってみてくれたのですが、前日まで回っていたモーターが回りません。
乾電池を新しいものに換えてもダメです。C
さんは今にも泣きそうです。
電池ボックスやクリップに巻き付けた銅線がさび始めていて電流が流れにくくなっていたことが原因です。
「ここを半田付けすれば、こんな事にならずにすむんだけれどね。」と慰め、簡易モーターが回る理由の説明を始めました。
翌週です。「先生早く早く。」
ダイニングテーブルに行くと、半田ごてと半田、そして先週うまく回らなかった簡易モーターが置いてあります。
「半田で止めると、錆びないからうまく回ると先生が言ったから、半田ごてを買ってもらったの。」
Cさんはうれしそうです。
私自身、学生の頃からのオーディオマニアで、真空管アンプなどを自作していましたから、半田付けは得意中の得意です。
数分で半田付けを終わり、電池を入れると簡易モーターが回り始めました。
「やったー!先生ありがとう。」
その後、Cさんは電磁誘導やモーターの単元では完璧な出来を示すようになってくれました。
このように、私が知っている理科が得意な子供は例外なく、やってみることに強い興味を示します。このあたりにヒントがありそうです。
次回はそれをもう少し深く考察してみたいと考えています。
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